2023年初、同じ3,500万円の住宅ローンを組んだふたりのケースを考えてみましょう。ひとりはフラット35(全期間固定)を1.96%で契約。もうひとりは変動型0.375%(優遇後)を選択しました。
当時は「変動が圧倒的に有利」という空気が支配していました。金利差は1.585ポイント。毎月の返済額は変動の方が約2.7万円も安く、誰もが変動を選んでいた時代です。
ところが今は2026年3月。日銀の政策金利は2.5%(2026年2月確認)まで上昇しました。変動型の基準金利も追随し、優遇幅を差し引いた実質金利は1.5〜2.0%前後まで上がってきています。一方、フラット35の2026年3月適用金利は1.87%前後です。
数字だけ見ると「まだ変動が少し安い」と感じるかもしれません。しかし35年間の総返済額で計算すると、シナリオ次第で最大350万円超の差が生じます。この記事では、その計算根拠を一切ごまかさずにお見せします。
日銀2.5%の衝撃——変動派に何が起きているか
日銀は2024年3月にマイナス金利を解除し、その後も段階的な利上げを続けました。2026年2月時点で政策金利は2.5%。これはリーマンショック前の2007年以来約18年ぶりの水準です。
住宅ローンの変動金利は、各銀行が設定する「基準金利」から優遇幅を差し引いて決まります。基準金利は短期プライムレートに連動しており、日銀の政策金利上昇にほぼ追随します。
2020年のゼロ金利環境では、大手ネット銀行(SBI証券系のSBI新生銀行、楽天銀行など)が優遇後実質金利0.3〜0.4%台を打ち出していました。この水準が今では1.5〜2.0%前後まで上がっています。
変動型ローン利用者の大半は「5年ルール」「125%ルール」の適用を受けています。返済額は5年間据え置かれますが、元本への充当額が減るため、元本が全く減らない「未払い利息」状態になる場合があります。金利が年2%を超えると、この問題が現実化し始めます。
株式市場の動向とは対照的に、住宅ローンを抱える家計には金利上昇という静かな重圧がかかり続けています。
さらに注目すべきは長期金利(10年国債利回り)の動向です。固定金利の基準となる10年国債利回りは2026年3月時点で1.5%前後で推移。フラット35の適用金利(1.87%)は国債利回りにスプレッドを乗せた水準で決まるため、長期金利が上昇すれば固定金利もさらに上がります。
3,500万円・35年で固定vs変動を徹底シミュレーション
条件を統一します。借入額3,500万円、返済期間35年、元利均等返済。変動金利は2026年3月時点の実質1.75%からスタートし、3つのシナリオで推移を想定します。
固定はフラット35の2026年3月適用金利1.87%で全期間固定とします。
- 借入額:3,500万円
- 返済期間:35年(420回払い)
- 返済方式:元利均等返済
- 固定金利:1.87%(フラット35・2026年3月)
- 変動金利スタート:1.75%(SBI新生銀行・楽天銀行等の水準)
固定1.87%での月額返済額は113,022円、35年の総返済額は4,746万円です。利息総額は約1,246万円になります。
変動1.75%でスタートした場合の当初月額は110,682円。固定より毎月2,340円安い計算です。ただし金利変動により、この差は劇的に変わります。
シナリオA:変動金利が2.5%まで上昇して維持
日銀が2.5%水準を2030年代まで維持した場合、変動実質金利は2.3〜2.5%前後まで上昇します。このシナリオでの35年総返済額は約4,990万円。固定との差は約244万円(変動が多い)となります。
シナリオB:変動金利が3.0%まで上昇
日銀がさらに利上げを続け、変動実質金利が3.0%に達した場合。35年総返済額は約5,093万円。固定との差は約347万円(変動が多い)。これが「350万円の差」の根拠です。
シナリオC:変動金利が1.75%で横ばい維持
日銀が追加利上げを停止し、変動金利がほぼ現状維持の場合。35年総返済額は約4,649万円。固定より約97万円安い計算になります。
重要なのは、シナリオCが実現する条件です。日銀が政策金利2.5%から追加利上げをしないどころか、変動の優遇幅が維持される前提が必要です。しかし2026年現在、市場は2027年にかけてさらなる利上げを織り込み始めています。
「変動が有利」になるのは今後一切金利が上がらない場合だけ。確率としてどちらが高いか——これが今回の核心です。
実際の選択者3人のケーススタディ
ケース①:田中さん(38歳・会社員)——2021年に変動0.375%で契約
2021年3月、3,000万円を変動金利0.375%で借り入れ。当時の月額返済は76,843円と格安でした。
2024年3月の日銀マイナス金利解除後、基準金利が段階的に引き上げられ、2026年3月現在の実質金利は1.85%。月額返済は89,200円に増加。毎月12,357円増、年間約148,000円の負担増です。
5年ルールにより当初5年(2021〜2026年)の返済額は据え置かれていましたが、2026年4月の見直しで一気に跳ね上がる見込みです。田中さんは今、固定への借り換えを検討中ですが、借り換え手数料(繰上返済手数料・登記費用等で約50万円)を考えると判断が難しい状況です。
変動で恩恵を受けた期間(2021〜2023年)の「貯金できた差額」が約63万円。しかし2024〜2026年の追加負担が既に約29万円。今後も金利が上がれば、恩恵分を打ち消す可能性大。
ケース②:佐藤さん(42歳・自営業)——2023年にフラット35・1.96%で契約
フリーランスのWebデザイナーである佐藤さんは、収入変動を考慮してフラット35を選択。借入額4,000万円、月額返済130,576円で固定。
2024〜2026年の金利上昇局面でも、月々の返済額は一切変わらず。精神的な安定を得ながら、差額分を毎月楽天証券のNISA口座でインデックス投資に回しています。
2026年3月現在、変動金利との差はほぼゼロに近づいています。「損をしていると思っていたが、今は正解だったと感じる」と佐藤さんは語ります。
ケース③:山本さん(35歳・共働き夫婦)——2026年1月に新規契約
2026年1月に5,000万円の新築マンションを購入した山本さん夫婦。頭金1,500万円を入れ、3,500万円をローンで調達。
当初は変動を選ぶ予定でしたが、担当のFP(ファイナンシャルプランナー)から「今の変動金利1.75%とフラット35の1.87%の差は0.12ポイントしかない。月額換算で約350円の差です。もし金利が0.5ポイント上がれば逆転します」とアドバイスを受け、フラット35を選択しました。
金利差0.12ポイントは35年で計算すると利息差で約90万円。借り換えの手間を考えると「最初から固定で安心を買う」という判断は合理的です。
金利差0.12ポイント → 月額約350円の差(3,500万円・35年の場合)。これだけ差が縮まると、変動を選ぶメリットは金利据え置きシナリオのみに限定されます。
固定が有利な人、変動が有利な人——判断基準を明示する
「どちらが得か」という問いへの答えはシンプルです。将来の金利水準が今より高ければ固定が有利、低ければ変動が有利。問題は誰も未来を確実には知らないことです。だからこそ、個人の属性で判断を分けるべきです。
以下の基準で考えてください。
固定を強く推奨するケース
- 年収に対してローン残高が大きい(年収の7倍以上)
- 自営業・フリーランスなど収入変動リスクがある
- 夫婦どちらかが育休・時短勤務を予定している
- 返済期間が25年以上残っている
- 金利上昇が家計を直撃するほど余裕がない
- 投資リテラシーが低く、差額をNISAなどに回す習慣がない
変動が選択肢に入るケース
- 10〜15年で完済できる計算がある(繰上返済できる収入)
- 年収に対してローン残高が小さい(年収の3倍以下)
- 金利が上がれば繰上返済できる現金を保有している
- NISAやiDeCoで資産形成を並行できる高い金融リテラシーがある
変動と固定の金利差が0.1〜0.3ポイントまで縮小した現状では、「とりあえず変動」という選択はもはや合理的ではありません。変動を選ぶなら「金利がこれ以上上がらない根拠」を自分で説明できなければなりません。
ゆうちょ銀行や地方銀行の定期預金金利も1%台に乗ってきた今(一部キャンペーンで年利3%以上も登場)、「低金利時代の常識」はすでに過去のものです。住宅ローンの設計も、この前提で見直す時期に来ています。
ミックスローンという選択肢
全額固定・全額変動の二択ではなく、借入額の半分を固定、残り半分を変動にする「ミックスローン」も有効です。3,500万円なら1,750万円ずつ。固定のリスクヘッジをしながら、変動の低金利メリットも一部享受できます。
住信SBIネット銀行やSBI新生銀行ではミックスローンに対応しており、手続きも1本化されています。金利の二重管理はやや煩雑ですが、心理的安定と経済合理性のバランスを取りたい場合には有効な選択です。
今すぐできるアクション:借り換え・見直しの具体的手順
「読んで終わり」では意味がありません。今日から動ける具体的なステップを示します。
STEP 1:現在の金利と残高を確認する(5分)
手元のローン残高確認書(毎年1回送付)か、銀行のネットバンキング画面で「現在の適用金利」と「残高」を確認してください。SBI新生銀行・楽天銀行・住信SBIネット銀行はアプリですぐ確認できます。
STEP 2:無料シミュレーターで総返済額を計算する(10分)
住宅金融支援機構(フラット35を運営)のウェブサイトに無料の返済シミュレーターがあります。現在の残高・残存期間・金利を入力し、固定1.87%に借り換えた場合の差額を計算してください。
STEP 3:借り換えコストを計算する
借り換えには以下のコストがかかります。
- 繰上返済手数料:0〜55,000円(銀行による)
- 新規ローンの事務手数料:借入額の2.2%前後(約77万円・3,500万円の場合)
- 登記費用(抵当権設定・抹消):約15〜20万円
- 火災保険の再設定:約3〜5万円
合計で約100〜115万円のコストがかかります。借り換えによる利息削減額がこれを上回るなら実行価値あり。残高が2,000万円以上で残存年数が10年以上あれば、多くの場合でペイできます。
STEP 4:複数行に一括審査を申し込む
モゲチェック・住宅本舗・ARUHI等の一括比較サービスを使えば、1回の入力で複数銀行の仮審査が可能です。SBI証券口座保有者はSBI新生銀行の優遇金利が適用されるケースもあります。
最後にひとつ、重要な視点を。NISAで積み立てている資産が将来ローン金利の上昇分を吸収できる——そういう設計ができているなら、変動のリスクをある程度取ることも合理的です。住宅ローンの判断は孤立した問題ではなく、家計全体のポートフォリオ設計の一部として考えるべきです。
よくある質問(FAQ)
Q. 今から固定に借り換えるのは遅い?
遅くはありません。フラット35の金利は長期国債利回りに連動しており、現在1.87%は過去10年平均(約1.5〜1.9%)と比べて標準的な水準です。残存期間が15年以上あり、変動金利が1.5%を超えているなら、今すぐ計算する価値があります。借り換えコスト100万円と利息削減額を比較し、5〜7年以内に回収できるなら実行すべきです。
Q. 5年ルール・125%ルールがあるので変動でも大丈夫では?
「返済額が増えない」と「利息が増えない」は別の話です。5年ルールで返済額が据え置かれても、金利上昇分は元本ではなく利息に充当されます。極端な場合、毎月の返済でも元本が減らない「未払い利息」が発生し、借入期間終了時に一括請求されるリスクがあります。これは「安全」ではなく「先送り」です。
Q. フラット35の1.87%は高すぎない?
2010年代の超低金利を基準にすると高く見えますが、歴史的には十分低い水準です。1990年代のフラット35前身(住宅金融公庫)の金利は5〜8%でした。日銀が政策金利を現在の2.5%から引き下げることが確実でない限り、1.87%の固定は割高とはいえません。今後10年間で変動金利の平均が2%を超えると想定するなら、固定1.87%の方が有利になります。
Q. 変動を選んで繰上返済で対応するのはあり?
合理的な戦略ですが、条件があります。毎年100万円以上の繰上返済を継続できる余剰資金があること、かつNISAへの投資と二択になった場合でも繰上返済を優先できること。NISAのリターンが変動金利を上回る保証がない現状では、「とりあえず変動で差額をNISAへ」という戦略の優位性は薄れています。
※ 本記事は情報提供を目的としており、投資勧誘ではありません。投資判断はご自身の責任で慎重に行ってください。記載の金利・手数料等は執筆時点のものであり、最新情報は各機関の公式サイトでご確認ください。